2015年12月02日

断酒日記 56日目「エイズ検査は陰性なれど」

今から14年も前のことだ。「おれはエイズではないか」と急に心配になって、あわてて検査を受けたことがある。
大久保の路地裏にある「最前線」のクリニック。ここは採血後、15分ほどで結果が出る。
日当たりの悪い院内は静けさにつつまれていた。先客の中年男がソファに腰掛け、所在なげにしている。
やがて彼は呼ばれ、診察室に消えていった。待つこと数分、彼はとても晴れやかな顔をして出てきた。それを見て、心底うらやましく思った。
いよいよ私の番だ。あっという間に採血されて退室。
結果が出るまで15分、雑誌など読む余裕はない。心中、ひたすら神仏御先祖様に祈りを捧げるのみだ。
「YSさん」
私のことだ。ここではプライバシーを配慮して、患者はイニシャルで呼ばれる。
診察室に入り、丸椅子に腰をかけた。医師は血液の入った試験管を目の高さに掲げながら、ぼそっとつぶやいた。
「まあ、だいじょうぶでしょう」
全身から力が抜けた。
嬉々として家路に就いたが、道すがら、医師の言った「まあ」が気になり始めた。
翌日も翌々日になっても、「まあ」が頭から離れない。
さらに、いろいろ調べてみると、あれやこれやと心配になり、ひと月半後にもう一度検査を受けたほうがいいという結論に達した。
それからのひと月半は、地獄の日々であった。
日夜、エイズ治療の記事や患者の手記を手当たりしだいに読んでは、将来に絶望した。
仕事も手につかず、相棒に丸投げ。
昼過ぎまで寝ていて、ちょっと会社に顔を出して、最低限の用事をこなす。それから飲みに出て、夜更けまで何軒もはしごして、泥酔してはブラックアウト。
飲んでは、目の前の現実から目を背ける。そんな日々がひと月半つづいた。
幸いにして、2度目の検査でも陰性という結果が出て、ことなきを得た。
だが、私はあの時、すでに忍びよっていたもう一つの脅威に気づいていなかった。
もう一つの脅威とは、いうまでもなく酒である。
エイズノイローゼの期間で、私の酒はすっかり様変わりしていた。
飲んで酔うことで現実逃避する。そんな回路が開通してしまっていたのである。
エイズ検査は陰性であったが、このとき同時に、私の酒癖も「陰性」に陥っていたとは、当時は思ってもみなかった。
写真:友人・冨田直子さんの会社が10周年を迎えました。いただいた旅行券で、新潟スタンプラリーへ。いい思い出ができました。とみたさん、ありがとう!

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posted by 雄峰 at 11:13| 落人日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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